はじめに―都道府県職員の出世の最高峰―
都道府県職員が出世の階段を上り詰めると、副知事というポストにたどり着きます。
知事は選挙により選ばれるため、生え抜きの職員が就任するのは非常にまれです(最近、福岡県知事に県職員出身の人が就任しましたが)。
職を辞して選挙に出るなら話は別ですが、そこまでする人はめったにいないですし、そもそも出馬したとして、勝てるとは限りません。
したがって、実質的に生え抜き職員が到達できる最高峰のポストは、副知事ということになります。
では、副知事とはいったいどのような職なのでしょうか。
今回は、副知事の仕事や年収、任期、なるまでの出世競争の激しさなどについて調べてみました。
副知事というポストについて
副知事は「特別職」という立場で、知事が議会の同意を得て選任します(地方自治法第162条)。
任期は4年で、人数は各自治体の条例によって定められています。
現在、最も人数が多いのは東京都で、4人の副知事がいます。
2人か3人の副知事を置いている都道府県が多いですが、人口の少ない都道府県では、1人のところもあります(総務省「地方自治月報 第58号」「(3) 副知事・副市町村長の定数に関する調」参照)。
以下では、副知事の仕事内容やおおよその年収、なるまでの出世競争の激しさについて解説します。
仕事内容
副知事の仕事は主に、知事の仕事の補佐です。
具体的には、知事に上げるほど重要ではない案件を決裁したり、議会で答弁をしたり、知事が多忙の際、イベントや会議などに出席したりします(実際には、知事のスケジュールが空いていたしても、知事が出るほど重要ではないと判断すれば、副知事が代わりに出ることもあります)。
副知事が複数人いる場合、それぞれ担当する部局が異なります。
例えばA副知事は総務部と健康福祉部と危機管理部、B副知事は政策企画部と農林水産部と建設交通部、といった感じです(副知事レクは、基本的には自分の部を担当する人にだけ行います)。
参考までに、地方自治法には、副知事の業務は次のように書かれています。
普通地方公共団体の長を補佐し、普通地方公共団体の長の命を受け政策及び企画をつかさどり、その補助機関である職員の担任する事務を監督し、別に定めるところにより、普通地方公共団体の長の職務を代理する。
地方自治法第167条より抜粋
年収
副知事の収入は都道府県によって異なりますが、総務省の「給与・定員等の調査結果等」によると、だいたい月給ベースで100万円前後です。
かりにボーナスが4か月分だとすると、単純計算で年収は約1,600万円となります。
ちなみに、月給ベースで最も給料が高いのは東京都(118万9千円)で、最も低いのは秋田県(79万500円)となっています。
なお、最近ではコロナ対応等のために、知事や副知事の報酬をカットしている自治体もありますが、その場合は当然、年収はこれよりも少なくなります。
激しい出世競争
副知事になるには、非常に激しい出世競争を勝ち抜かなければなりません。
任期は4年のため、1期で交代するとしても、単純に考えて4期に1人しか副知事になることはできません(副知事が一人の場合)。
仮に上級職の同期が100人いるとすれば、副知事になれるのは(100人×4期で)400人に1人という計算になります。
財政課や企画系の課などの出世コースをたどり、部長職まで昇進していることは大前提として、前任の副知事が退任するタイミングや、知事が選んでくれるかどうかという運の良さも持ちあわせていなければならないでしょう。
キャリア官僚という「壁」
では副知事が2人いる県なら、チャンスも2倍になるのでしょうか。
そう簡単にはいきません。
副知事のポストが複数あるとしても、そのうち1つは国から出向してくるキャリア官僚のために用意されていることが多いからです。
内閣官房内閣人事局が公表している「国と地方公共団体との間の人事交流の実施状況」を見ると、副知事として都道府県に出向している国家公務員は、全部で23人います(令和2年10月1日現在)。
出身省庁別でみると、総務省が9人、国土交通省が5人、厚生労働省が4人、経済産業省が3人、財務省と文部科学省が1人ずつとなっています(令和2年10月1日以降、さらに総務省から2人(熊本県・鹿児島県)、農水省から1人(富山県)就任。厚労省出身は1人退任(鹿児島県)。計25人)。
各都道府県の副知事の人数および官僚出身の副知事の有無
令和3年(2021年)4月現在の各都道府県の副知事の人数と、官僚出身の副知事の有無をまとめたのが以下の表です。
都道府県 | 副知事の人数 | うち官僚出身者 |
北海道 | 3 | 1(総務省) |
青森県 | 2 | |
岩手県 | 2 | |
宮城県 | 2 | |
秋田県 | 2 | 1(経産省) |
山形県 | 1 | ※2021.3.11~、総務部長が代行中 |
福島県 | 2 | |
茨城県 | 2 | 1(国交省) |
栃木県 | 2 | 1(総務省) |
群馬県 | 2 | 1(経産省) |
埼玉県 | 3 | 1(国交省) |
千葉県 | 2 | 1(総務省) |
東京都 | 4 | |
神奈川県 | 2 | |
新潟県 | 2 | 1(総務省) |
富山県 | 2 | 1(農水省) |
石川県 | 2 | |
福井県 | 2 | |
山梨県 | 1 | |
長野県 | 2 | 1(総務省) |
岐阜県 | 2 | 1(総務省) |
静岡県 | 2 | |
愛知県 | 3 | 1(厚労省) |
三重県 | 2 | |
滋賀県 | 2 | 1(厚労省) |
京都府 | 3 | 1(国交省) |
大阪府 | 3 | 1(総務省) |
兵庫県 | 2 | |
奈良県 | 2 | 1(財務省) |
和歌山県 | 1 | |
鳥取県 | 1 | |
島根県 | 1 | |
岡山県 | 2 | 1(総務省) |
広島県 | 2 | 1(経産省) |
山口県 | 1 | |
徳島県 | 2 | |
香川県 | 1 | |
愛媛県 | 2 | 1(総務省) |
高知県 | 1 | |
福岡県 | 3 | |
佐賀県 | 2 | 1(文科省) |
長崎県 | 2 | 1(国交省) |
熊本県 | 2 | 1(総務省) |
大分県 | 2 | 1(厚労省) |
宮崎県 | 2 | 1(国交省) |
鹿児島県 | 2 | 1(総務省) |
沖縄県 | 2 |
表を見ると、副知事が複数人いる都道府県の多くに、官僚出身の副知事がいることが分かります。
複数の副知事がおり、かつ官僚出身者がいない県は、全部で14あります。
しかし、そうした自治体でも、例えば2人のうち1人は民間から登用するケースもあるため、実際には生え抜きの職員が就ける副知事のポストは、(東京都など一部を除き)1枠の場合が多いです。
さらに調べてみると、再任される副知事も多くいることが分かりました。
かりに、生え抜きの職員が就ける副知事のイスが一つしかない県で、職員出身の副知事が2期務めるとすると、8年もの間、新たに副知事になる職員が出てこないことになります。
このように考えると、副知事になれる都道府県職員は、本当にごくわずかなようです。
まとめ
今回は、副知事の収入や仕事内容、就任する難しさなどについて書いてきました。
まとめると次のようになります。
- 副知事の主な仕事は知事を補佐し、代理の業務などを行うこと。自身が決裁権を持つ案件もある。
- 副知事の収入は都道府県ごとに異なるが、月給ベースでおよそ100万円前後。
- キャリア官僚が出向してくることも多く、生え抜き職員で副知事になれるのはほんのごく一部。
- 優秀なのは大前提で、運も味方につけなければ、副知事にはなかなかなれない。
副知事になりたいのなら、都道府県の職員になるよりも(特に総務省の)官僚になった方が早いかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。