はじめに
どの世界にも「業界用語」的な言葉はあると思いますが、公務員の世界も例外ではありません。
今回は、(地方)公務員として働いていると頻繁に使う言葉を14個挙げてみました。
公的な言葉から俗語(業界用語?)的なものまで、幅広く選んでみました。
僕自身、新人の頃は意味がよく分からず、戸惑うこともあったので、公務員になろうと考えている人は知っておいて損はないと思います。
公務員がよく使う言葉14選
① レク
非常に頻繁に使う言葉です。
「レクチャー」の略で、知事や副知事、部長、さらには議員といった偉い人に、事業の内容を説明・報告することを指します。
基本的には紙の資料を用意し、それを渡して読んでもらいながらレクをします(今は多少はテレワークやペーパーレス化が進んでいるかもしれませんが)。
場合によっては付属する資料を作ったり、色々なデータを集めなければならないので、結構準備が大変です。
本庁で知事や副知事と距離の近い部署は、特に頻繁にレクがあります。
② 議会待機
議会の開催時期になると、本庁でよく聞く言葉です。
基本的に、議会で議員が行う質問は、事前に担当課に内容が知らされます。
担当課は、答弁書の案を作成し(場合によっては議員と勉強会を開き、質問や答弁の内容を調整)、知事や副知事など議会で答弁する人にレクをします。
この質問が通告されるまでの間、職員は職場に待機していなければなりません。
というのも、質問の内容が直前になって変わったり、そもそも通告が遅れたりすることがあるからです。
翌日までに答弁書を用意しなければならないのに、夕方になっても質問の要旨がわからない、みたいなこともあるわけです。
最近では特に、霞が関で議会(国会)待機による長時間残業が問題になっていますが、地方公務員も基本的には同じです。
ただし、国に比べれば、それほど長時間待機させられることは多くないと思います。
僕が本庁にいた頃は、18時頃に解除になることもよくありました(定時は17:15)。
議会待機の一番の問題は、質問が当たらなかった課は無駄に残業することになるという点でしょうか。
質問内容がわからないと、どの課が答弁書を作成すればよいのかもわからないので、結局多くの課が残ることになります。
③ 〇〇先生
これも議会がらみですが、議員のことは基本的に「〇〇先生」と呼びます。
(腹の底ではどう思っていようと)表面上は議員には最大限の敬意を表さないといけません。
なんでそこまで偉いの!?という感じもしなくもないですが、議員は選挙で選ばれているため、住民の利害を代表しているのに対し、公務員は選挙の洗礼を受けていないから、ということかもしれません。
④ 起案
起案とは、「公文書などの草案を作ること」(デジタル大辞泉)です。
公務員が何らかの事務を行う際には、必ず上司の決裁(許可)をもらわなければなりません。
決裁をもらうために、事務の内容やその対象、根拠法令などを記した文書を起案文書と言います。
起案文書は担当者から担当課のヒラの職員→主任や班長、室長→課長というふうに、下っ端から偉い人の順に回っていきます。
課長の決裁をもらえば良い事務もあれば、その上の部長の決裁まで必要なものもあります。
公務員であれば、ほぼ毎日使う用語です。
なお、似たような言葉に「稟議」というものもありますが、少なくとも僕のいた役所ではほとんど使いませんでした。
⑤ ~してよろしいか
なぜかはわかりませんが、起案文の文末は、必ず「~してよろしいか」で締められます。
少し不思議な言い回しですが、こういうしきたりなので黙って従います。
公務員として働いていると、そのうち慣れます(笑)
⑥ 持ち回り決裁
急ぎの場合は、起案文書を持参して上司に口頭で説明し、決裁をもらいますが、そのことを「持ち回り」とか「持ち回り決裁」とか呼びます。
通常は、下の職員から順に、文書の内容を確認した上で押印し、隣や正面の席の人の机に乗せ、その人がまた確認・押印して次の人に渡すという流れですが、これだと時間がかかってしまいます(場合によっては誰かの机の上でしばらく放置されている、なんてことも)。
なので、急ぎの場合は持ち回りにして決裁をもらうわけです。
⑦ ~等
役所の文書には、「~等(とう)」という言い回しが頻繁に出てきます。
例:「~等に対応するため、〇〇や〇〇等を整備し…」
「また、××等に配慮しつつ、〇〇等の関係団体と協議を進めて…」
なぜ「等」を多用するかというと、1つの文書・文言の中にいろいろな内容を含めておきたいからです。
議会答弁が典型ですが、対象となるものをすべて列挙して説明しているとキリがないので、代表的なものを挙げた後は「その他もろもろ」という意味で「等」をつけておくわけです。
そうすることで、あとあと抜けがあったとしても「それは『等』の中に含まれています」と逃れることができます。
そのため、公務員を続けていると「困ったらとりあえず『等』を入れておけば大丈夫だろう」みたいな発想になっていきます。
⑧ 投げ込み
マスコミに向けて発表する案件がある場合は、報道発表用の資料(プレスリリース)を広報担当の課に持っていきます。
広報担当の課は、役所の中にある記者クラブにプレスリリースを持ち込みます。
これを「投げ込み」と言います。
頻繁に報道発表を行う部署ではよく使う言葉です。
ただ、役所よりも、マスコミ界隈でよく使う言葉かもしれません。
ちなみに記者クラブとは、大手や地元メディアの記者によって構成される組織のことで、都道府県庁など公的機関によく設置されています。
役所に関するニュースは、基本的に役所内の記者クラブに属している記者が取材したり、「投げ込み」された資料を読んだりして報道されます。
⑨ シーリング(概算要求基準)
シーリング(Ceiling)とは「天井」という意味ですが、役所では予算の概算要求基準を指します。
各部署が予算を要求する際に、財政当局が示す「最大でもこの額までしか予算は出せない」という上限のことです。
予算が無際限に膨らむのを防ぐ効果がありますが、一方で、必要な事業なのに十分な予算が確保されないおそれもあります。
個人的には、予算は実際の必要性に応じて柔軟に組むべきだと思うのですが、財政当局にとっては、シーリングは絶対に譲れない一線のようです。
⑩ 所掌(しょしょう)
聞きなれない言葉かもしれませんが、所掌とは「法令によって、ある事務が特定の機関の職務に属するものと定められていること」(デジタル大辞泉)を指します。
「担当」とか「所管」、「所轄」などと同じような意味ですが、特に行政機関に対して使われる言葉です。
役所の内部にいると、よく「所掌事務」とかいう使い方をします。
⑪ 主管課
各部局の中心的な課のことで、部局内の人事や予算などを管理するほか、部局長にとっての秘書課的な役割や、議会側との窓口といった役割もあります。
「〇〇企画課」や「〇〇政策課」といった名称が一般的です。
他の課に比べ一段上の立ち位置にある気がします。
⑫ 〇〇階
その階にある特定の課を指す隠語みたいなものです。
僕のいた役所では、特に秘書課のことを「〇〇階」と呼んでいました。
例:「その内容だと〇〇階が納得しないんじゃないかな」
ただ、他の役所でも同じような使われ方をするかはわかりません。
⑬ 呼び込み
部長など幹部にレクをする際、前の予定(別のレクなど)が長引くなどして時間通りに始まらない場合に、都合がよくなったタイミングで知らせることです。
その際には主管課から担当課に電話が入ります。
電話を受けた職員は、「呼び込みでーす!」と課全体に聞こえるように伝え、課長などが急いで部長室に入る、というのがよくある光景です。
⑭ 簿冊
書類をまとめるファイルのことです。
最初に「ぼさつ」と聞いたときは仏像の「菩薩」かと思いました。
プラスチック製のものもあれば硬い紙製のものもあります。
公務員は依然紙ベースでの仕事がメインなので、簿冊は毎年どんどん増えていきます。
そのため、役所の各部屋の壁には巨大な棚があり、ぎっしりと簿冊が詰まっているのがお決まりです。
ほとんどの簿冊には保存期間があり、一定の年数を超えたものは廃棄します。
毎年必ず保管年数を過ぎたものをチェックして捨てるのですが、この確認作業がかなり大変でした。
業務内容や事業年度、書類の種類ごとにきっちりと簿冊にファイリングしないといけないので、整理整頓が苦手な人にとっては大変かもしれません。
おわりに
今回は、公務員がよく使う言葉を14個挙げてみました。
公的な言葉も含め、役所以外の世界ではあまり見聞きしないものも結構あるのではないでしょうか。
また、国家公務員にとっては一般的でも、地方公務員には聞きなれない言葉もよくあります。
(例えば「霞が関文学って何??|NHK NEWS WEB」という記事で官僚独特の隠語が取り上げられていますが、僕は「呼び込み」くらいしか知りませんでした)
ほかにも、文章を書くときによく使う「いかにも公務員」的な表現もありますが、それはまた別の機会に紹介したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。