地方公務員には、新聞当番という制度があります。
特に本庁に勤務する若手の職員は、ほぼ毎朝駆り出されることになるでしょう。
今回は、公務員の伝統文化ともいえる(?)新聞当番について解説します。
公務員を目指している方は「こんな日課があるのか」と知っておくといいかもしれません。
現役公務員の方は「あるあるだわ(笑)」といった感覚を覚えると思います。
ただし、部署によっては新聞当番がないところもあります。
僕がいた某県庁で働いていたときは、最初に配属された本庁では当番がありましたが、次に異動した出先機関ではありませんでした。
新聞当番って何?―概要と流れ―
新聞当番。それは毎朝始業前から始まる公務員の戦いである。
いや、基本的にはそんな大げさなものではありません。
ただし、後で解説するように、たまに「時間との戦い」みたいな事態になります(まだ始業前なのに…)
具体的にどんな内容でどのような流れなのか、以下で解説します。
毎朝、早めに出勤して業務に関係する記事をチェック
新聞当番の朝は早い。午前8時、〇〇課最年少の職員××(23歳)が、新聞の束を両脇に抱えオフィスに入ってきた(情〇大陸ナレーション風)。
朝、職場に一番早く着いた職員(だいたい若手の職員)が、県庁舎1階の新聞ボックスから新聞の束を持って部屋に入ってきます。
※なお、ここでいう「若手」とはだいたい30代前半くらいまでの職員を指します。役職でいえば「主事」や「副主査」などです。
基本は朝日・読売・毎日・産経・日経の5大紙+地方紙(各都道府県や地域に拠点を持つ新聞社)ですが、たいていそこに各課の業務と関係する業界紙(たとえば農業関係の課なら日本農業新聞など)も加わります。
僕のいた課では、とある事情から「赤旗」も取っていました。
おおーっと、出勤してきた若手職員たちが次々に新聞を手に取っていくぞー!
もちろん、ただ何となくと読むのではなく、課の業務と関係のある記事が出ているかどうかチェックしなければなりません。
さらに、新聞と同時並行でNHKなどのニュースサイトもチェックします(もしかすると新聞以上にNHKが重要かもしれません)。
役所の始業時間は通常8時半ですが、新聞当番だとだいたい8時過ぎには来ている職員が多いです。
なお、残念ながらどれだけ早く来ようと時間外手当はつきません(少なくとも僕のいた県庁ではそうでした)。
記事を切り抜き→貼り付け→コピー→配布
該当する記事を見つけたら、切り抜きして台紙(コピー用紙)に貼り付けます。
はさみとのりを使うので、まるで小学生の工作です。
ただし、新聞紙を直接切ってはいけません。なぜなら、裏面にも該当する記事があるかもしれないのと、万が一破れてしまったときやり直しがきかないからです。そのため、一度新聞ごとコピーしてから「〇月〇日 〇〇新聞」と記事の端にメモ書きしたうえで切り抜き、台紙に貼り付けます(←二度手間)。
次に、台紙に貼り付けた記事をさらにコピーしていきます。
当然1枚の台紙には入りきらないので、何枚もの台紙に貼り付けコピーし、ホチキスでまとめたらようやく完成です。
まとめた記事は課長から順に、管理職の人(もしくは机)に配布していきます。
加えて、部長室にも持っていきます。
管理職以外の職員は各グループ(班や室)に1部ずつ配られ、業務中に回覧で読んでいく流れです。
配布まで済んで、ようやく新聞当番の仕事は終わりです。
早くて30分、記事が多いときは1時間くらいかかるときもあります。
1面全体に記事が載っているとA4の台紙におさまりきらないので、一度縮小コピーしてから貼り付けなければならず、かなり面倒くさいです。
遅くても9時頃には配り終えないといけないので、該当記事が多いとあわただしくなります。
しかし、本当に大変なのは「知事室」に入れるレベルの重大記事が出たときです。
重要記事は知事室に持っていくことも
課の施策に直接かかわる内容が全国面で取り上げられるなど、かなり重大な記事が出たときは知事室まで持っていきます。
その場合、少しでも早く持って行かないといけないので非常にあわただしくなります。
しかもコピーがずれていたりかすれていたりすると怒られる(秘書課からお叱りを受ける)ので、いつもの3倍くらい神経を使わないといけません。
なお、どのレベルの記事だと知事案件になるのか、その判断は管理職の人次第です。
なので重要そうな記事が出たらその都度確認を取らないといけないのも面倒な点です。
ただ、本当に重要な記事が出るときは、前日に国(中央省庁)もかかわるような大きな会議があったり、プレスリリースをしたり、知事が課に関係する内容の会見をしたりすることが多いので、何となく予想はつきます。
そういうときはいつもよりもさらに早めに出勤するよう、前日に指示があります(もしくは暗黙の了解)。
ちなみに、知事案件の記事がどのくらいの頻度で出るかは、課によってかなりまちまちです。
国政ともかかわるような施策を担っている課だと、当然頻度は高くなります。
僕がいた課がまさにそうだったので、時期によっては知事案件の記事が出まくることがありました…。
新聞当番って必要?
さて、毎朝これほどの労力をかける新聞当番ですが、果たして本当に必要なのでしょうか?
個人的には「不要でもあり、必要でもある」というあいまいな結論しか出せません…。
不要というのは、そこまで手間暇をかけなくてもいいのでは?という意味です。
たとえば切り抜いて貼り付けてまとめて…という定年退職後の暇なおじいちゃんみたいなことをやらなくて済む方法はないのかな?と考えてしまいます。
一方で、新聞当番的な仕事を完全になくすこともなかなかできません。
というのも、知事などが記者会見したり取材を受けたりするとき、「今朝の新聞で〇〇という報道がありましたが…」みたいな質問をされることがよくあるからです。
そのため、知事をはじめとする幹部の人たちは、県の施策や、それと関連する国の施策がどのように報道されているのかをしっかり把握していないといけません。
幹部職員が1人ですべての報道をチェックするのは不可能なので、各課が分担して報道内容をまとめる必要があるのです。
おわりに―若手職員は毎朝早めに出勤するのを覚悟しましょう―
今回は公務員に課せられる「新聞当番」について解説しました。
改めて書くと、特に本庁の若手職員は始業よりも早めに来て、新聞の切り抜きという超アナログな作業から1日の仕事を始めることになります。
おそらく時間外手当がつく可能性は低いので、そういうものだと受け入れるしかありません。
また、重大記事が出て知事室に入れるとなると、非常にあわただしくなるのは覚悟しておきましょう。
最後に余談ですが、日本全国の役所の各課が新聞を取っているということは、新聞社からすれば役所は非常に大口の顧客なのではないでしょうか?
一般家庭と違ってそうそう契約を打ち切ることはありませんし、企業のように潰れることも(基本的には)ないので、超優良顧客といっていいでしょう。
新聞の(紙ベースの)発行部数は減少傾向にあるようですが、役所の「新聞当番」が存在する限り、新聞の需要がゼロになることはなさそうです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。