安定していてホワイトなイメージのある公務員ですが、決してホワイトとは言えない面もあります。
そのうちの一つが時間外手当(いわゆる残業代)の扱いです。
今回は、元某県庁職員の僕が、自身の経験をもとに公務員の時間外手当の実態(闇)について書いていきます。
公務員の時間外手当事情やサービス残業の実態に興味のある方は参考にしてみてください。
公務員はサービス残業が普通にある
結論からいうと、サービス残業は普通にあります。
僕は某県の本庁と出先機関(税事務所)で働いていましたが、どちらでもサービス残業が普通にありました。
当時、他の部署の同期から話を聞いた限りでも、やはり本庁・出先に関係なく時間外手当が満額でつくのはかなりレアケースのようでした。
以下では、なぜ役所でサービス残業が発生しがちなのか、その理由を解説しつつ、僕の実体験をもとに残業代がつかない「あるある」のパターンを書いていきます。
ただし、自治体によっては時間外手当がしっかりつくところもあるようです。
特に、タイムカードにより出勤・退勤時間が正確に把握できており、かつ予算が潤沢な(=財政状況が良い)自治体ほどサービス残業は少ない傾向にあると思われます。
僕の勤めていた県はそもそもタイムカードがなく、後述のように残業する際には事前申告しなければならなかったため、サービス残業が横行していたのでしょう。
時間外手当が満額では出ない理由
時間外手当が満額で出ない=サービス残業が発生する主な理由として、以下の3つがあります。
- 時間外手当にあてられる予算が決まっているから
- 時間外が多いと管理職の評価が下がるから(無言の圧力と忖度)
- 事前申告+上司の承認が必要だから
①時間外手当にあてられる予算が決まっているから
公務員の場合、時間外手当にあてられる予算額が部署ごとに決まっています。
この額は前年(というより例年?)の時間外の多さなどを考慮して決められており、これを超えそうになると暗黙の了解でストップがかかってしまうのです。
当初の予算額を超えて時間外手当を支給することもできますが、その場合は補正予算を組んだり、庶務担当や管理職の人が総務課あたりに掛け合って予算を確保してもらったりする必要があります。
また、例年にはない突発的な業務(たとえば災害やコロナ対応など)が発生し、どうしても予算を超えてしまうこともあるので、「申請したのに時間外手当がつかない」といったことは基本的にはありません。
しかし、いろいろな方面に配慮し、忖度してしまうのが公務員の悲しき性(笑)
「どうやら今年度は時間外手当の予算を超えそうだ」という噂が課内で流れると、どうしてもサービス残業をする流れになりやすいのです。
②時間外が多いと管理職の評価が下がるから(無言の圧力と忖度)
これも忖度と関係しますが、部署内の職員の時間外が多いと管理職自身の評価が下がります。
そのため、管理職はなるべく職員に残業をさせないように普段から指導します。
それ自体はもちろん悪いことではありません。
しかし、部下の方が余計な忖度をして(というか上司に怒られるのを避けるため)、実際の残業時間よりも少ない時間しか申請しないことがよくあります。
本来、部下の残業時間を管理するのが管理職の仕事ですが、仕事の絶対量が多かったり仕事が遅い部下がいたりすると、課や班全体の(実際の)残業時間が増え、どうしてもサービス残業が生まれやすくなってしまうのです。
僕が本庁の課にいたとき、仕事が重なり一時期残業が非常に多くなってしまった同僚がおり、そのことが問題視され、班全体で残業をあまりしないように上司から指導がありました。
それ以降、(その年度に関しては)時間外を申請しにくい空気ができてしまったのを覚えています。
「残業して仕事を終わらせても評価はしないから定時までに終わらせるように」と上司からはっきり言われたのを覚えています。
③事前申告+上司の承認が必要だから(タイムカード等ない自治体)
これは自治体によると思いますが、僕のいた県では残業するときは事前に(たしか当日の16:30までに)申請し、上司が承認しないと時間外手当がもらえないシステムでした。
「今日は〇〇の業務を終わらせないといけないので、3時間残業してもいいでしょうか?」みたいな感じです。
タイムカードなどによる勤怠管理が全くなかったので、こういうやり方だったのだ思います。
前述のように、時間外を申請しまくると上司の評価が下がるのであまりいい顔はされません。
そのため、結果的に本来の残業時間よりも少ない時間を申請するようになってしまうのです。
時間外手当が出ない具体的なパターン(実体験ベース)
ここからは時間外手当がつかない(もしくはつきにくい)ケースを、僕自身の経験をもとに挙げていきます。
よくあるパターンは以下の6つです。
- 申請した時間よりも遅くまで働いた
- 月45時間に達した
- 1時間30分以下の残業(19時前に退勤するなど)
- 休日出勤
- 早出出勤
- 22時以降の残業
①申請した時間よりも遅くまで働いた
たとえば3時間分残業を申請したものの、3時間では終わらず4時間かかってしまった場合、超過した1時間分は時間外手当の対象外になってしまいます。
後日再度申請することもできなくはないですが、事前申請が原則なのでそのままサービス残業化してしまうことがよくあります。
僕は出先機関にいたとき、かなりこの状態になっていました。
「このくらいの量の仕事なら〇時間くらいで終わりそう」と予測するのがとにかく苦手で(要領が悪い?)、想定以上に時間がかかってしまうことが多かった記憶があります。
また、後述の②の要因により、意図的に申請時間を少なくすることもありました。
②残業時間が月45時間に達した
これも自治体や部署・時期などによって違うかもしれませんが、月の残業時間が45時間を超えると総務課あたりから問題視されます。
45時間というのは、労働基準法で規定されている労使協定にもとづく残業時間の上限です(いわゆる「36協定」)。
公務員は一部の業務や職種を除き36協定が適用されないようですが、長時間労働の一つの基準としては存在しています。
(承認された時間外が)45時間を超えると上司と面談したり、場合によっては時間外削減のための計画を作ったり分掌事務の見直しをしたりと、かなり面倒な事態になります。
こうなるのを避けるため、申請する残業時間が45時間以内になるよう調整することがよくあるのです(実際、僕も一時期そうしており、パターン①の要因にもなっていました)。
③1時間30分以下の残業(19時前に退勤するなど)
僕のいた県では、本庁でも出先機関でも1時間半以下の残業は申請しない暗黙のルールがありました(今はどうなっているかわかりませんが)。
定時は17:15なので、19:00前くらいまで残っていてもほとんどの場合残業とはみなされないということです。
議会待機のときも同様で、たとえば18:30に解除になった場合は時間外を申請せずにそのまま帰っていました。
④休日出勤
出先機関で忙しかった時期はやむを得ず休日に出勤することも結構ありました。
しかし、この場合も時間外を申請してはいけないという暗黙のルールが立ちはだかります。
というか、一回申請しようとしたら上司に「休日出勤はあくまで自主的なものだから」という理由で止められました(笑)
ただ、本庁時代にいた課は休日にイベントや住民説明会などを行うことがあり、時間外手当は出ないものの代休はもらえました。
拘束時間が4時間程度なら代休は半日分ですが、年休(有休)を半日取得することで丸一日休日にする、といったこともできました。
要は、イベントなどは強制出勤なので代休をもらえる一方、普通の事務仕事を休日にやるのは強制ではないので時間外手当も代休ももらえない、ということです。
⑤早出出勤
朝はどれだけ早く出勤しても時間外手当は出ませんでした。
やはり出先機関にいた頃、仕事が終わらなさ過ぎて朝7時半くらいに出勤していたこともありましたが、これも休日出勤と同様「あくまでも自主的に早く来ているだけ」というノリでした。
また本庁時代には、課の業務に関連する新聞記事を切り抜いてまとめる作業(新聞当番)が始業前にありましたが、こちらもどれだけ早く来ても時間外手当はつきませんでした。
※新聞当番については以下の記事で詳しく解説しています。
まあ、当時は「若手職員が早く来るのは当然か」みたいに思っていましたが。
⑥22時以降の残業
22時以降の残業代も原則つきませんでした。
22時~5時までは「深夜残業」となり、通常の残業よりも割増した賃金を支払わなければなりません。
※22時までの残業は25%割増ですが、深夜残業はさらに25%上乗せして50%の割増となります。
22時以降の残業が頻繁に発生するとあっという間に時間外の予算がなくなってしまうので、申請は避けるべきという空気があったのです。
僕は23時くらいまで残業したときも、申請した時間外は4時間(つまり21:15まで)にしてしまっていました。
おわりに―時間外手当はきちんと申請すべき―
今回は公務員のサービス残業事情について書いてみました。
公務員の世界には残業にまつわる様々な暗黙の了解があり、そのためにサービス残業が生まれやすくなっていることがわかっていただけたと思います。
もちろん、本来であれば暗黙の了解や空気など関係なく、残業代はきっちりと支払われるべきです。
でも、そうすると仕事の遅い人(ポンコツ公務員)がさらに多くの残業代をもらってしまうから、優秀な人にとっては不公平じゃない?
このように思う方もいるかもしれません。
しかし、業務量に比べ明らかに残業が多い公務員は、たいてい出世コースから外れ閑職に異動するのでご安心ください(笑)
実際、僕自身が仕事の遅いポンコツ公務員であり、そうなってしまった経験があります。
出先機関で残業が多かったのは先に書いた通りですが、歴代の同じ業務の担当者に比べ僕は明らかに残業が多かったそうです。
その分(サービス残業があったとはいえ)時間外もたくさん申請していたのですが、それが管理職の人たちの間で若干問題になり、1年で担当を外され、同じ部署内の忙しくない係に異動させられました(プチ左遷?)。
逆に仕事の早い優秀な職員は高く評価され、出世コースに乗りやすくなります。
出世コースは激務の部署が多く、優秀な人でないと仕事を回せないので理に適っていると言えばその通りでしょう。
ただ、優秀であるがゆえにたくさんの仕事を任され、常に仕事の負担が大きくなってしまうのは考え物かもしれませんが…(特に公務員は出世スピード以外ではほとんど給料に差がつかないので)。
なお、仕事が早いアピールをしようとして、本当は残業しまくっているのに時間外手当を申請しないのもオススメしません。
残業しまくっているのは周りから見ていて普通にわかりますし、周りの職員も申請しづらくなってしまうからです。
なるべく定時までに効率的に仕事を進めつつ、残業する場合は極力きちんと申請するのが理想でしょう。
さすがに分単位でつけろとか、朝早めに来た時間までつけろとは言いませんが、せめて定時後は1時間の残業から申請し、かつ22時以降の割増分もきちんと申請した方がいいのではないかと思います。
その結果人件費がかさむのが問題になるのであれば、それは役所全体で解決すべきです。
また、仕事の遅い職員ばかりで残業代が増えるのが問題なら、そういう人材しか採れないという意味でやはり役所全体の問題だと言えます。
サービス残業が横行しているとそうした問題が顕在化せず、働き方改革のような施策がなかなか進みません(サービス残業しまくっていた僕が言っても説得力はありませんが…)。
なんだか最後に長々と書いてしまいましたが、要するに優秀だろうとそうでなかろうと、真面目に仕事をやっているのであればきちんと残業代をもらう権利はあるということです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。