地方公務員試験の試験区分には、初級(高卒程度)・中級(短大卒程度)・上級(大卒程度)がありますが、入庁後は、それぞれの区分によってどのような違いがあるのでしょうか。
この記事では主に、「給料」、「昇進・出世」、「仕事内容」の違いについて解説します。
※なお、話を分かりやすくするために、以下では初級と上級を比較します。中級職がない自治体も多いですし、ある場合でも、給料や昇進などの面で、両者の間くらいの位置にある、と捉えれば特に問題ないかと思います。
はじめにものすごくざっくりした結論を言うと、給料と昇進・出世に関しては結構違うが、仕事内容に関しては(若手の頃は特に)そこまで変わらない、といった感じです。
給料の違い―初任給では3~4万円ほど違う―
初級と上級では、給料に明らかな違いがあります。
上級職の初任給は、自治体によってばらつきはありますが、都道府県や政令指定都市であれば20万円前後であるのに対し、初級の初任給は16万円台、といったところです。
具体例として、福岡県の職員の初任給(地域手当含む)を見てみると(「令和3年度職員募集パンフレット」参照)、
- Ⅰ類(上級に相当):201,000円程度
- Ⅱ類(中級に相当):180,000円程度
- Ⅲ類(初級に相当):165,000円程度
と書かれています。
昇給のペースは、(役職が同じであれば)上級も初級もそれほど変わらないので、キャリアを通じて初級の方が給料は低くなります。
勤続年数によってどのくらいの差があるのか、総務省の「地方公務員給与実態調査結果」を参考に、以下の表にまとめました。
※表中の金額は都道府県職員(一般行政職)の平均給料月額(基本給)です。大卒は上級、高卒は初級と読み替えて問題ないと思います。
勤続年数 | 大卒 | 高卒 | 差額 |
---|---|---|---|
1年未満 | 186,857 | 152,329 | 34,528 |
1~2年 | 192,884 | 157,503 | 35,381 |
2~3年 | 199,928 | 163,008 | 36,920 |
3~5年 | 211,741 | 174,773 | 36,968 |
5~7年 | 228,423 | 191,522 | 36,901 |
7~10年 | 248,738 | 208,747 | 39,991 |
10~15年 | 284,459 | 240,735 | 43,724 |
15~20年 | 334,631 | 284,097 | 50,534 |
20~25年 | 371,045 | 331,952 | 39,093 |
25~30年 | 391,618 | 363,050 | 28,568 |
30~35年 | 410,428 | 380,722 | 29,706 |
35年以上 | 424,337 | 396,523 | 27,814 |
参照:総務省HP「平成31年 地方公務員給与実態調査結果(第6表 職種別・経験年数別・学歴別職員数及び平均給料月額)」
勤続年数が同じ場合、大卒(上級)と高卒(初級)では、だいたい3~5万円ほど基本給に差があることがわかります。
加えて、地域手当や残業代などは基本給をもとに算出されるので、額面の月給(給与月額)の差は、さらに大きいと考えられます。
ただ、(意外なことに?)勤続年数が20年を超えると、両者の差は少しずつ縮まっているのがわかります。
これは勤続20年以上になると、大卒の給料の伸び幅が高卒に比べ小さくなるためです。
では、勤続年数ではなく年齢が同じ場合には、大卒と高卒でどのくらい差があるのでしょうか。
これも総務省が公表している資料をもとに、まとめてみました。
※表中の金額は都道府県職員(一般行政職)の平均給料月額(基本給)
年齢 | 大卒 | 高卒 | 差額 |
---|---|---|---|
20~23 | 188,678 | 170,870 | 17,808 |
24~27 | 207,691 | 200,181 | 7,510 |
28~31 | 237,254 | 228,919 | 8,335 |
32~35 | 268,522 | 263,135 | 5,387 |
36~39 | 306,611 | 299,028 | 7,583 |
40~43 | 346,061 | 339,355 | 6,706 |
44~47 | 372,983 | 362,074 | 10,909 |
48~51 | 390,393 | 376,028 | 14,365 |
52~55 | 404,956 | 389,949 | 15,007 |
56~59 | 420,973 | 397,707 | 23,266 |
参照:総務省HP「平成31年 地方公務員給与実態調査結果(第7表の1 職種別・年齢別・学歴別職員数及び平均給料月額)」
勤続年数に比べると、給料の差は小さくなります。
ただ、それでも5千円~2万円くらいの差はあります。
公務員の給料は「俸給表」によって定められています。
表の左から右に向かって1級、2級…、上から下に向かって1号、2号…、と書かれており、各マス目に月給が載っています。
月給は右下に行くほど高くなります。
左上の方からスタートし、毎年少しづつ下に移動するのに加え、役職が上がるなどすると右に移動していきます。
ポケモンに例えるなら、下への移動はレベルアップ、右への移動は進化みたいな感じでしょうか(金・銀世代の記憶)。
言葉で説明してもイメージしづらいので、興味のある方は、「公務員 俸給表」などで検索してみてください。
昇進・出世の違い―本庁の課長級以上は上級がほとんど―
若手の頃は、初級と上級で昇進・出世のスピードにそれほど違いはありません。
差が出てくるのは40歳を過ぎたあたりからでしょうか。
上級の場合、40代半ばくらいで管理職になる人もいます。
本庁であれば、「副課長」や「課長補佐」、「〇〇室長」といった役職で、文字通り課長を補佐したり、部下に指示を与えたり、事業を統括したりする立場です。
僕のいた県では、本庁の管理職は上級職の人が多かったです。
さらにその上の本庁課長級になると、ほぼ上級職が占めることになります。
ただし、初級の人が絶対にこうしたポジションまで出世できないわけではありません。
例えば僕のいた県では、高卒で本庁(それもかなり出世コースの課)の課長になった人もいました(もしかしたら、高卒で上級職だったのかもしれませんが…)。
これはもちろんレアケースですが、出先機関では、初級職の人が事務所の所長など組織のトップに立つことも珍しくありません。
いずれにしても、一般的には、初級と上級で昇進・出世のスピードに明確な差があると言えるでしょう。
仕事内容―若手の頃はそこまで変わらない―
初級職は出先機関の窓口業務や、ルーティン的・裏方的な仕事がメイン。
上級職は企画・立案など複雑な業務がメイン。って感じじゃないの?
このようなイメージがあるかもしれませんが、実際に働いた経験から言うと、初級と上級で担当する業務がそこまではっきりと分かれているわけではありません。
特に若手の頃は、ほとんど同じと言ってよいかもしれません。
上級職でも若手の頃は、数年は出先機関(県税事務所や土木事務所など)で勤務するのが普通ですし、初級職でも本庁に配属される人は多くいます。
確かに、企画・立案など、行政の花形的な仕事は上級職が担うのが一般的です。
しかし、若手の頃から花形的な仕事を任されることはまれですし、そもそも上級職全体の人数に比べれば、そうした仕事は数が限られています。
したがって、上級職でも出先機関で窓口業務などを担当することもあれば、本庁勤務だとしても、課内のお金の管理など、内部的な仕事をすることも普通にあります。
もちろん、昇進のスピードの違いから、管理職的な仕事は上級職が担うことが多いですし、どちらかといえば、出先機関の仕事や内部的な業務は初級職が担当する傾向はあります。
とはいえ、国家公務員や民間で言うところの総合職と一般職ほど、業務内容に明確な区別はない、といってよいでしょう。
部署間の異動を決めるのは人事や総務などの仕事ですが、部署内で誰にどの仕事を任せるかは、主にその部署の管理職の人たちが決めます(「課内異動」や「所内異動」と言います)。
例えば初級職でも適性があると判断すれば、上級職が担うような業務に抜擢することもあります(その逆もしかり)。
初級と上級の仕事内容にそれほど区別がないのは、こういった事情も関係しているのかもしれません。
まとめ
今回は試験区分の違いによって、入庁後の給料や昇進スピード、仕事内容はどう違うのかについて見てきました。
まとめると以下のようになります。
- 初級・中級・上級によって、初任給の時点から給料は明確に異なる。
- 昇進のスピードも異なる。本庁の管理職はほとんど上級職が占める。
- ただし、業務の内容自体は、初級から上級までそれほど大きく変わらない(若手の頃は特に)。
ここまで書いて思ったのですが、仕事の内容はそれほど変わらないのに、給料は明らかに違うとなると、不満を感じる初級職の人もいるかもしれませんね…。
なお、以上はあくまでも、僕の経験をもとに書いたものです。
自治体によっては、特に昇進のスピードについては記事の内容と異なる場合もあります。
参考程度に読んでいただけると幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。