県庁で働き始めて数日が経ったころ、隣の課の課長がやけに若いことに気が付きました。
その課にいた同期に聞いてみると、やはり国(総務省)から出向してきたキャリア官僚で、まだ30代前半とのことでした。
都道府県をはじめ、自治体の管理職・幹部のポジションには、中央省庁から出向してきた人が就いていることがよくあります。
例えばある県に副知事が二人いる場合、一人は生え抜きの職員、もう一人は国から出向してきた官僚、というパターンが一般的です(東京都のように、官僚出身の副知事がいない場合もあります)。
※どの都道府県にキャリア官僚出身の副知事がいるのか、また各都道府県に何人の副知事がいるのかについては、こちら↓の記事でまとめています。
あくまでも個人的な印象ですが、本庁の課長や部長の場合、全体のポストに対して国からの出向組が占める割合は、1~2割といったところでしょうか。
内閣官房内閣人事局が公表している「国と地方公共団体との間の人事交流の実施状況」によると、令和2年10月1日時点の、国から地方公共団体への出向者数は、総数が1,788人、うち都道府県が1,158人、市町村が630人となっています。
都道府県に限ってざっくり計算すると、1,158÷47=約24.6人が各都道府県に出向していることになります(もちろん、自治体の規模などによって人数は変わると思いますが)。
今回は、自治体へ出向してくるキャリア官僚というテーマで、国と地方の「差」を中心に考えてみたいと思います。
はじめに―そもそも、「出向」の目的は?―
国家公務員における出向とは、主として国と地方の間の相互理解を促進し、幅広い視野を持った人材を育成する観点から行われています(内閣人事局HP:採用昇任等基本方針(平成26年6月24日閣議決定)、7ページ参照)。
若いうちに地方自治体の重要なポジションを経験させることで、地方の現状を肌で感じ取り、政策を取り仕切る能力や部下をまとめる能力などを養うのが主な目的だといえるでしょう(自治体の側からすると、国とのパイプをつくれるというメリットがあります)。
ドラマなどを見ていると、出向=「事実上の左遷」のようなイメージを抱くかもしれませんが、少なくとも自治体に出向する国家公務員に関しては、そうした意味合いはありません。
地方だけでなく、他の省庁や民間企業に出向することもよくあります。
いずれにしても、多様な職務を経験することで、視野を広げ、行政官としての能力を高めることが大きな目的だと言えます。
※ただし、ある程度の年齢になり、出世競争に敗れて外郭団体などに出向する場合には、「左遷」という意味合いが強くなると思われます。
また、若いうちに地方に出向し、将来的にその自治体で副知事や知事といったポジションに就くための足掛かりをつくる、という目的もあるかもしれません。
※官僚出身の知事がどのくらいいるのかなど、各都道府県知事の経歴については、こちらの記事でまとめています↓
なお、出向の期間は1~2年程度が一般的です。
年齢の差
国家公務員(官僚)が地方自治体に出向すると、生え抜きの職員よりもはるかに若い年齢で、管理職・幹部のポストに就きます。
都道府県に関していえば、本庁課長なら30代前半くらい、部長級なら40代前半といったところです。
生え抜きの職員の場合、一般的には、課長になれるのは50歳前後、部長になれるのは50代後半になってからなので、同じポジションで15~20歳くらいの年齢差があることになります。
給料の差
一般に、出向中の国家公務員の給与は、出向先の自治体が負担し、給与額も自治体のモデルに基づいています。
つまり、都道府県に出向すれば、30代で課長クラス、40代で部長クラスの年収を得られるということです。
そのため、同年代の自治体職員との間に、圧倒的な年収の差が生まれます。
どのくらいの差があるのでしょうか。
具体例として、大阪府の年収モデルを見てみましょう。
大阪府人事委員会が公表している令和2年度の「給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイント」中の「大阪府職員モデル給与例」によると、行政職の35歳(主事級(副主査))の年間給与額は約505万円、45歳(主査級)の年間給与額は約705万円となっています。
また、50歳(課長級)では約984万円、55歳では約1,299万円です。
ということは、かりに国家公務員が35歳で府の課長に就任すると、同年代の職員との年収の差は、約480万円となります。
45歳で部長職に就くとすれば、同年代の職員との差は590万円以上です。
管理職以外の職員には時間外手当が加算されるので、実際にはこれよりも多少差は縮まりますが、それでも圧倒的な差があることは間違いありません。
能力の差
では、国から出向し、管理職・幹部のポジションに就く人と、生え抜きでそのポジションに就く人との間で、能力に差はあるのでしょうか。
あくまでも僕個人の感覚ですが、正直そこまで変わらないと思います。
確かに、官僚の人は皆頭の回転が速く、事務処理能力も高いです。
しかし、生え抜きの職員でその位置まで出世する人も基本的に優秀ですし、何よりも長年の経験と知識が備わっています。
もちろん、自治体の事情や問題にも精通しています。
こうしたことを勘案すると、行政官あるいは管理職としての総合的な能力は、そこまで変わらないのではないでしょうか。
ちなみに、キャリア官僚の人たちと仕事でかかわってきた経験からいうと、地方公務員との一番の違いは「バイタリティ」かもしれません(いろんな意味でパワフルな人が多かったです)。
それで思い出したことがあります。
本庁で働いていた時、部長が国から出向してきた方でした。
部や課の業務と関係の深い市が、毎年ウォーキング大会を開催しており、部長から若手の職員まで皆で参加したことがありましたが、部長の歩くスピードが異様に速かったのを覚えています(笑)
部長!それウォーキングじゃなくて、もはやジョギングなんですが…(30キロもあるのに)
地方→国というパターンもある
地方公務員が中央省庁に出向するパターンもあります。
ただ、この場合、あくまでも「研修」という名目であり、給料も自治体側が負担することが多いです(僕のいた県ではそうでした)。
※ただし、国が負担する場合もあるようです。どちらが負担するかは、地方公務員の身分のまま出向するのか、いったん退職して国家公務員の身分になるのかによって変わります。
国に出向するのは、県や市の中で将来を嘱望されている優秀な職員です。
組織全体の観点からすると、中央省庁へ優秀な人材を送り込むことで、国とのパイプを作ることができるというメリットがあります。
個人としては、国レベルの大きな仕事に関わることで、視野を広げることができます。
また地方に対する霞が関の論理を知ることで、自治体に戻り国と対峙する必要が生じたときに、相手の出方を想定することもできます(実際に国に出向経験のある先輩が言っていました)。
さらに、霞が関のハードな環境で揉まれることで、肉体的・精神的なタフさを身につけられるというメリットもあるかもしれません。
まとめ
今回は地方へ出向してくるキャリア官僚というテーマで、国家公務員(官僚)と地方公務員の差を中心に書いてみました。
まとめると以下のようになります。
- キャリア官僚が地方へ出向すると、若くして部課長クラスのポジションに就くことができる。
- 当然、自治体の同年代の職員よりも、年収は圧倒的に高くなる。
- ただし、同じポジションの出向組と生え抜き組で、総合的な能力の差はそこまでないと思われる。
- 地方から国への出向もよくあり、たいてい優秀な職員が送り込まれる。
最後まで読んでいただきありがとうございました。