鳥インフルエンザ関連のニュースで、防護服姿の人が農場で作業しているのを見たことはないでしょうか。
作業しているのはたいてい、自治体の職員です。
作業と言えばオブラートに包めますが、実際にやっているのは殺処分です。
僕は某県職員時代に一度、鳥インフルの殺処分に駆り出されたことがあります。
今回は、殺処分要員として出動したときの体験談を中心に書いていきます。
はじめに―防疫対応の職員に選ばれてしまう―
大規模な鳥インフルエンザなどが発生すると、農林関係以外の部署の職員も駆り出されます。
各課に1人程度、鳥インフルなどが発生したときに対応する職員があらかじめ決められているのです。
そしてたまたま僕が課内の対応者だった年に、県内で鳥インフルが発生してしまいました。
防疫対応の職員に選ばれると、年度の始めに研修を受け、鳥インフルなどが発生した場合の動きや防護服の着脱の仕方などを教わります。
僕ももちろん研修を受けたのですが、まさかその年に本当に発生するとは思いませんでした…。
鳥インフル発生の第一報が入る
研修を受けてから数か月後、職場に不吉な電話がかかってきました。
いわく「 県内で鳥インフルが発生したので、防疫対応職員は全員出動することになった」とのこと。
たくさんの班に分かれて24時間体制で対応するのですが、僕は夜中に作業する班に選ばれてしまいました。
夜9時に県庁に集合してバスで養鶏場に向かい、明け方まで作業するという「夜勤」シフトです。
午後3時頃に電話がかかってきて、いきなりその日の夜に出動することになったので、心の準備も全くできませんでした。
ただ、当時の上司が「たぶん徹夜になるだろうから、今日はもう上がっていいよ」と言ってくれたのは助かりました。
お言葉に甘えて時間休を取り、早めに帰宅して数時間仮眠をとってから殺処分に向かいます。
バスで養鶏場へ→体育館でひたすら待機
夜9時に県庁に集合し、数台のバスに分乗して養鶏場へ。
農場の近くの体育館に集められ、そこでしばらく待機することになりました。
交代制の人海戦術なので、前の班が帰ってくるまで次の班は出動できないのです。
しかし、待てども待てどもなかなか出番が来ません。
どうやら、養鶏場の規模に比べ駆り出された人数が多すぎて、順番待ちの時間が長くなってしまったようです。
体育館にはビニールシートが敷かれているだけなので床がかたく、おまけに人口密度も高いので、寝ようにも寝られません。
というか、いつ出動することになるのかも分からないので、ずっと起きているしかありませんでした。
ようやく出動することになったのは明け方の4時頃。
作業内容のレクチャーを受け、防護服を着てついに殺処分に向かいます。
明け方にようやく作業開始
実は、僕が出動する頃にはもうほとんど殺処分は終わっており、作業としては鶏舎の掃除が中心でした。
そういえば、夜中は鶏の鳴き声がうるさかったのに、明け方になる頃にはほとんど聞こえてきませんでした。
あれは鶏の断末魔の叫びだったということでしょう。
ちなみに、殺処分の方法はポリバケツに鶏を放り込み、二酸化炭素を注入して窒息死させるのが一般的です(農林水産省資料参照。僕が出動したときもこの方法でやっていました)。
僕が鶏舎に入ったときにはもう鶏の姿はなく、羽が散乱しており、まさに大量虐〇の後(?)という感じでした。
鶏舎の掃除というと大したことないと思われるかもしれませんが、結構慎重さが必要です。
というのも、卵やエサを全部回収しないといけないからです。
卵やエサの回収量によって養鶏業者への補償額が変わってくるそうなので、捨てるわけにはいきません。
ケージを一つ一つ確認して、卵とエサをそれぞれ袋に入れていきました。
加えて、完全密閉の防護服を着て作業するので、非常に息苦しくなります。
実働時間は3時間ほどでしたが、それでもかなり疲れました。
清掃作業が終わる頃には、外はもう完全に明るくなっていました。
朝なのに鶏の鳴き声が聞こえない養鶏場というのはかなり不気味です。
なお、退却する際には防護服の上から徹底的に消毒します。
また防護服を脱ぐときは、手が服の外側に触れないようにしないといけないので大変です。
ようやく待機場所の体育館に戻り、行きと同じようにバスで県庁に帰ってきました。
たまたま翌日は土曜日だったので、そのまま帰宅し爆睡していました。
僕の場合は数時間しか作業しなかったのですが、獣医師などの職員はまる2日くらい不眠不休で作業していたようです(本当にお疲れ様です…)。
おそらく、公務員の仕事の中では心身ともにトップレベルのハードさではないでしょうか。
殺処分の手当は?―普通の時間外手当が出る―
殺処分に駆り出されると特別な手当が出るのかと思いきや、普通の時間外手当が出ました(他の自治体がどうなのかはよく分かりませんが)。
一応待機時間も時間外勤務に含まれ、深夜の割増分も加算されたので、1万5千円くらい貰えた記憶があります。
僕は清掃作業がメインだったので良いのですが、直接殺処分を行った職員は精神的な負担が大きいので、この額が見合っているのか微妙かもしれません。
おわりに―公務員には「汚れ仕事」も多い―
今回は、鳥インフルエンザが発生したときの殺処分について、実体験をもとに書いてきました。
殺処分に限らず、公務員にはいわゆる「汚れ仕事」が結構あります。
たとえば産業廃棄物の不法投棄の指導などでは、ヤ〇ザ(っぽい人)を相手にすることも普通にあります。
生活保護の担当なども、精神的にかなりキツイみたいです。
ちなみに、業務でヤ〇ザと関わることになってしまったときに備え、公務員は暴力団対策研修というものを受けます。
そのときの恐怖体験(?)については以下の記事で書いています。
公務員と言うと「楽な仕事」というイメージもあるかもしれませんが、こうした危険でハードな仕事に従事することも珍しくないのです。
公務員を目指している方は、そのあたりも覚悟しておいた方が良いかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。