はじめに―公務員の給料は減らした方がいい?―
公務員はロクに仕事しないくせに給料もらい過ぎなのだ!
皆さんの血税で公務員はおいしい思いをしている!
私が当選したら公務員の給料をカットします!
テレビや新聞やネットや街頭演説、その他いろいろな場所で、こんな意見を見聞きすることがよくあります。
税金から給料をもらい、クビになることも勤め先が倒産することも(ほぼ)ない以上、こうした批判が出るのは自然なことかもしれません。
しかし、公務員の給料は本当にカットすべきなのでしょうか?
「公務員の給料は減らしてはいけない」というのが、この記事の主張です。
なぜ減らしてはいけないのか、その理由を以下で解説していきます。
こういう内容の記事を書くと、「どうせ公務員が自己弁護しているのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、僕はすでに公務員を辞めているので、公務員の給料が減ったところで個人的には全く関係ありません。
ただ単に、論理的に正しいと思うことを書こうと思った次第です。
ただし、公務員の給料は民間企業の水準に合わせて決められるので、不景気で民間の給料が減れば公務員の給料も下がります。
ここでいう「公務員の給料カット」とは、たとえば災害復興の財源や財政問題などの理由で、民間の水準とは無関係に下げることをイメージしています。
公務員の給料を減らしてはいけない理由4つ
公務員の給料を減らすべきでない理由として、主に次の4つがあります。
- 公務員の士気が下がるから
- 優秀な人材が集まらなくなる&辞めやすくなるから
- 給料が減る分消費を抑えるため、経済を冷え込ませるから
- 日本は財政破綻しないから
①公務員の士気が下がるから
1つ目の理由は、公務員の士気が下がるからです。
公務員に限りませんが、普通の人は給料が下がるとモチベーションも下がります。
しかも公務員の場合、個人レベルで仕事を頑張っても給料にはほとんど反映されないので、「給料を上げるために頑張ろう」という気持ちも持てません。
給料が上がる期待がなく、将来的にさらに下がると予想すれば、余計やる気は失われていきます。
士気が下がれば、仕事の質も落ちていき、行政サービスの質が低下するのは避けられません。
すると、住民は不利益を被ることになります。
②優秀な人材が集まらなくなる&辞めやすくなるから
2つ目の理由は、優秀な人が公務員になろうとしなくなり、かつ辞めやすくなるからです。
これも当たり前ですが、給料の低いところに優秀な人材はなかなか集まりません。
優秀な人なら、より好待遇のところで採用される可能性が高いからです。
また、給料が低いと今いる優秀な人材が辞めてしまうリスクもあります。
これも採用時と同じ理屈で、優秀な人ほど他の業界に転職しやすいからです。
今のご時世なら、個人として生きていく選択肢もあります。
こうして優秀な人材が少なくなると、①と同様に行政サービスの質が落ちていきます。
重要な施策をやろうとしてもうまくいかない、といった事態に陥るかもしれません。
つまり、①と②の理由により、回りまわって住民が損をする可能性があるのです。
③消費を抑えるため、経済を冷え込ませるから
さらに、経済の面でより直接住民が不利益を被る可能性がある、というのが3つ目の理由です。
公務員の給料を下げると、その分消費を抑えます。
消費を抑えると、それだけ社会に回るお金が少なくなり、経済が冷え込みます。
そのプロセスを単純化した例でみてみましょう(マクロ経済学を学んだことがある人は飛ばしてOKです)。
たとえば、(場末の)スナックで飲むのが好きなくたびれた中年公務員がいたとします。
給料が下がったため、今まで週2,3回通っていた行きつけの店に、泣く泣く月に2,3回ほどしか行かないことにしました。
ママー、ぼく給料減らされたからあまりお店行けなくなっちゃいそうだよー。ぴえん。
ママさん
あら~、本当に?残念だわー。
(せっかくの金づる、じゃなかった良いお客様なのに…)
するとスナックの売り上げは落ちます。
売り上げが落ちると、スナックのママさんの所得が下がるため、その分ママさんも消費を抑えるようになります。
すると今度は、たとえばママさんがよく行っていた洋服屋の売り上げが落ちます(以下略)。
このように、誰かが消費を控えると、他の誰かの所得が下がり、さらに消費が落ち込む…という悪循環に陥ります。
これがデフレスパイラルというやつです。
かれこれ20年以上もこんな状態になっている今の日本で、公務員の給料を下げるとさらに状況が悪化することは間違いないでしょう。
以上は消費を減らした場合の例ですが、逆にいえば、誰かが消費を増やせば誰かの所得が増え、さらに消費が増える…という経済の好循環が生まれるということです。
日本人は貯金が好きといわれていますが、皆が貯金を切り崩して散財しまくれば、景気は良くなります。
もう少し穏当でお堅い言い方をすると、所得のうち消費に回す割合(=消費性向)が高まれば好景気になりやすく、低下すると不況になりやすいということです(もちろん、「不況で将来が心配だから消費性向が低くなる」という逆の因果関係も成り立ちますが)。
④日本は財政破綻しないから
そうはいっても、国も自治体も財政が厳しいんだから、公務員の給料は減らさないといけないだろ!
俺たちの血税を何だと思っている!
公務員の給料を減らして、その分教育に使ってよ!(家族に公務員いないから関係ないし)
こんな意見を持っている方も多いと思います。
確かに、本当に財政が厳しく、破綻の危険性があるならこうした意見ももっともです。
しかし、もし日本は財政破綻しないとしたらどうでしょうか?
日本が財政破綻する可能性は限りなくゼロである、というのが僕の意見です。
なぜなら、日本政府は通貨発行権を持っているからです。
実質的に日本政府の子会社である日銀が国債を買い取ってしまえば、事実上借金はチャラになります。
もちろん、だからといって無制限に国債を発行しまくって、財政赤字を増やしていいわけではありません。
あまりに財政赤字を拡大しすぎると、高インフレのリスクがあるからです。
そのため、インフレ率が高くなった場合、累進課税の強化や増税、金融引き締め、政府支出の削減といった手段をとる必要があります。
しかし、現在の日本は、アベノミクスで定めたはずの2%の物価目標をまったく達成していません。
現在は物価が上がりつつありますが、原油高などが原因のコストプッシュ型インフレであるため、政府の財政赤字うんぬんとは無関係です。
そもそも、それでも2%の物価目標は達成していません(2022年2月現在)。
※参考ニュース:日銀 若田部副総裁 2%の物価目標達成 “金融緩和維持が適切” | NHKニュース
また、普通、財政状況がヤバい国は金利が高騰します。
そうしないと国債の買い手が見つからないためです。
しかし、日本の金利はずーっと超低水準のままです。
たとえば10年国債の利回りは、最近わずかに上がったとはいえ、2022年1月末時点で0.18%以下となっています。
※参考:主要年限レート推移(長期金利等) | ヒストリカルデータ | 日本相互証券 (jbts.co.jp)
その影響で、いくら銀行にお金を預けても利息はほとんどつかないじゃないですか!(泣)
…ついついたくさん書いてしまいました。
厳密には、さらにいろいろと掘り下げるべきことがあるのですが(変動相場と固定相場での条件の違いとか、国家の生産力=供給能力の問題とか)、脱線するのでとりあえず日本は財政破綻しないという前提で話を進めます。
自治体は破綻リスクがあるのでは?
国は財政破綻しないとしても、自治体は破綻する可能性があるんじゃないの?
確かに、地方自治体は通貨発行権がないため、財政破綻する可能性があります。
しかし、解決策はあります。
国が財政支援すればいいのです。
また、(理屈の上では)日銀が地方債を買い取るという手もあります(実際に提唱している経済学者もいます。参考:【日本の解き方】日銀は地方債を購入すべきだ! 財政負担を軽減するメリット、やらない理由など存在しない (1/2ページ) – zakzak:夕刊フジ公式サイト)。
ただ、実際にやるとしたら、どんな基準でどこの自治体の地方債を買い取るのか、また日銀当座預金を持っていない自治体の地方債を引き受けるにはどうすればいいのか、といった問題はあります。
そんなことしなくても、国が普通に自治体を支援すればいいだけの話ですが。
このように考えると、財政破綻のリスクがあるから公務員(国家、地方ともに)の給料を下げるべきだ、という理屈は成り立たないことがわかります。
教育をはじめ、政府や自治体が予算を割くべき分野はたくさんあります。
しかし、その財源確保のために公務員の給料(人件費)を削減する必要はないのです。
おわりに
今回は、「公務員の給料を減らしてはいけない理由」というテーマで書いてきました。
経済や財政の分野に関しては、(メディアでの報道のされ方などに)言いたいことがたくさんあるので、ついつい長ったらしく書いてしまいました…。
要点をまとめると以下のようになります。
- 公務員の給料を減らすと、公務員のやる気が下がる。
- また、優秀な人材が入ってこない&流出しやすくなる。
- さらに減った給料の分消費が落ち込み、経済が冷え込む。
- というか、日本は財政破綻しないので公務員の給料を減らす必要性はない。
最後に付け加えると、公務員の給料を減らすべきではないからといって、今よりも大きく引き上げる必要もないと思います。
あまりに高すぎると、民間との間で不公平感が増すからです。
雇用の絶対的な安定性や、ボーナスもほとんど変動しない点などを考慮すると、大手の民間企業より平均年収が低いのは受け入れるべきかと思います。
ただ、サービス残業はなくしてほしかったです(サービス残業の実態については以下の記事で書いています)。
なお、今回書いた内容や理屈は「公務員一人あたりの給料」だけでなく、「公務員の数を減らすべきではない」という理由にも応用できます。
この辺もまた別の機会に書きたいと思います(さすがにここで追記するにはボリュームが多すぎるので…)。
最後まで読んでいただきありがとうございました。