HSPは公務員は向いているかな?
最近よく聞くようになったHSPという言葉。
「さまざまな刺激に敏感で気疲れしてしまう繊細な人」を指し、人口の約2割の人が当てはまると言われています。
そんなHSPの人にとって、公務員という仕事は向いているのでしょうか?
公務員(某県庁職員)として5年間働いた経験があり、HSP気質を持つ僕が、元当事者の視点から解説します。
※なお、ここでいう「公務員」とは、主に事務職(一般行政職)を想定しています。
はじめに―HSPの適職は難易度が高い?―
HSP関連の本などを読んでいると、こんな記述をよく目にします。
- 「HSPの多くはアーティストの感性を持っている(中略)その特性を生かして音楽家、画家、作家といったアートの世界で名をなした人はたくさんいます。」※1
- 「HSPは創造性や芸術性に優れています。(中略)自分の殻を破り、自分の直感に従って画家や漫画家、デザイナー、音楽家などで才能を開花させた人たちもいます。」※2
※1 高田明和『HSPと発達障害』p.164
※2 長沼睦雄『敏感すぎて生きづらい人の明日からラクになれる本』p.209
なるほど!HSPはアーティストやクリエイティブな仕事に向いているのか!
よし!オラ就活しないでハイ〇ーメディアクリエーターになるぞ!
さすがにこれほど極端な人はあまりいないかもしれませんが、HSPの適職としてアーティストやクリエーターといった職種が挙げられることがよくあります。
しかし、こうした仕事で生計を立てられる人はほんの一握り。
並大抵の努力や才能では成功できません。
そのため、「もっと普通の仕事で向いているものはないの?」という疑問を持つHSPの方も多いと思います。
そこで候補に挙がるのが「ザ・普通の仕事」である公務員です。
結論:HSPが公務員に向いているかは「一概には言えない」
前置きが長くなりました…。
では、HSPは公務員に向いているのでしょうか?
元当事者の立場から結論を言うと、向いているか向いていないかは一概には言えません。
拍子抜けした方もいるかもしれませんが、これが正直な感覚です。
なぜかというと、公務員の仕事は(事務系のものに限っても)ものすごく多種多様だからです。
部署や担当する業務によって、どんなタイプの人が向いているかは異なります。
また、一口にHSPといっても、人によって性格や興味関心、能力などはさまざまです。
そのため、「HSPは公務員に向いている/向いていない」とはなかなか断言できないのです。
とはいえ、ここで終わってしまうと物足りないので、以下では「HSPと公務員の相性がいい点/悪い点」をそれぞれ4つずつ挙げていきます。
HSPと公務員の相性がいい点
HSPと公務員の相性がいい点として、次の4つが挙げられます。
- 仕事のプレッシャーがあまり大きくない
- 体育会系的な文化ではない
- わりと休みを取りやすい
- 細かい業務が多く、丁寧な作業を求められる
①仕事のプレッシャーがあまり大きくない
公務員は営業ノルマなどがないので、比較的仕事のプレッシャーは小さい方だといえます。
また、強固な年功序列制なので、仕事のできる・できないにかかわらず給料はほぼ一定です。
そのため、「この仕事をしくじったらボーナスに響く」といった金銭的なプレッシャーもありません。
HSPは繊細で神経がたかぶりやすく、マイナス思考になりがちなので、常に強いプレッシャーにさらされていると人一倍消耗してしまう傾向があります。
こうした気質からすると、プレッシャーの小さい公務員の仕事は向いているといえるでしょう。
ただし、公務員にもプレッシャーの大きな仕事はあります。
代表的なのは災害対応です。最近ではコロナウイルスへの対応も該当するでしょう。
これらは自分の判断や対応のいかんによって人命にかかわることもあるため、非常に責任重大です。
一方で、HSPは(何でも1人で抱え込んでしまうくらい)責任感のある人も多いので、大きな責任を負ったときにとてつもない力を発揮する可能性もあります。
その代わり燃え尽きてしまうことも考えられるので、やはり一概に向いている/向いていないと断言はできないかもしれません。
②体育会系的な文化ではない
①とも関係しますが、基本的に役所には体育会系的な文化はありません。
もちろん上下関係はありますが(むしろうるさいぐらい)、ミスして罵声を浴びせられるとか、朝礼で大声であいさつするといった「ザ・体育会系」みたいなノリとは無縁です。
職員もわりと穏やかで落ち着いている人が多いので、職場の空気や文化の面で神経をすり減らすことはあまりないでしょう。
ただ、理不尽に罵倒されることはなくても、ロジックで冷静沈着にガンガン詰めてくる上司はいます(笑)(公務員で仕事に厳しい人はこういうタイプが多いです)
③わりと休みを取りやすい
HSPはいろいろな面で気をつかい、外部の刺激をたくさん受け取るため疲れやすいと言われています。
そのため、休みはしっかりほしいという人も多いのではないでしょうか。
その点、公務員は比較的休みが取りやすいので、HSPに向いているといえます。
たとえば有休は時間単位で取れますし、夏休みも確実に数日はもらえます。
そのほか産休や育休も取りやすいので、子育て世代の女性には特に公務員の環境は魅力的だと思います。
ただし、なかには非常に忙しい部署もあります。
そうした部署では有休が取得できないのはもちろん、連日遅くまで残業+休日出勤も当たり前ということも(時期によっては)珍しくありません。
このあたりは運の要素が大きいので、本人の意思ではどうにもなりません。
とはいえ、平均でみれば休みは取りやすいと思います。
④細かい業務が多く、丁寧な作業を求められる
公務員はいわゆる書類仕事が多く、数字や文言などに誤りがないよう、細かく丁寧な仕事が求められます。
HSPの人は細かいところによく気がつき、丁寧な作業が得意な傾向があるので、こうした公務員的な仕事に向いているといえるでしょう。
ただし、後で解説するように、外部の刺激が多く仕事に集中しにくい環境だと気が散ってしまい、本来の丁寧さが失われる可能性もあります(一時期の僕がまさにそうで、ケアレスミスが目立ちまくり、上司にADHDではないかと疑われるほどでした)。
HSPと公務員の相性が悪い点
反対に、公務員にはHSPと相性が悪い点もあります。それが以下の4点です。
- 理不尽な苦情・クレームをよく受ける
- 異動が多く、そのたびに環境が大きく変わる
- 注意が分散しやすい職場環境になりがち
- 飲み会などの付き合いが多い
①理不尽な苦情・クレームをよく受ける
公務員は市民の方と接する機会が多く、なかには理不尽な苦情やクレームを言ってくる人もいます。
自責の念が強く、相手の言うことを真に受けやすいHSPの人にはキツイかもしれません。
また、人の感情に共感しやすいのはHSPの良い面でもあるのですが、それが怒りなどの感情だとマイナスの方向に引きずられてしまいがちです。
そのため、苦情対応が多い業務だと相当にメンタルが疲弊してしまいます。
公務員の仕事は法律に基づいているので、無理な要求は無理とはっきり言わなければいけないのですが、そうした対応に(申し訳なさを感じたりして)ストレスを抱え込みやすいのもHSPの特徴でしょう。
ちなみに、僕は本庁の課にいたとき苦情の電話対応を担当していたことがあり、電話越しに罵声を浴びせられることもしばしばありました。
また、出先機関では税金の仕事をしていましたが、税金の窓口業務でも(想像通り)クレームはよくあります。
そのほとんどは明らかに理不尽な内容なのですが、立場上向こうの怒りが収まるまでひたすら待つしかなかったり、「俺たちの税金でいい思いしやがって」みたいに嫌味を言われたりすることも日常茶飯事でした。
どのくらい苦情対応が多いのかも部署によってまちまちですが、窓口対応のある部署ではほぼ避けられません。
②異動が多く、そのたびに環境が大きく変わる
公務員は異動が頻繁にあります。
「公務員の異動は転職と同じ」とよく言われますが、本当にその通りで、今までやったことのない仕事をイチから覚えなくてはなりません。
異動のスパンはだいたい3~4年くらいですが、同じ部署で担当業務が変わることも珍しくありません。
新しい環境や人間関係などに適応するのに人一倍神経を使うHSPの人にとって、異動が頻繁に起こることは結構なストレスです。
いい方向に環境が変わればいいのですが、そうでない場合はなおさら疲弊してしまうでしょう。
③注意が分散しやすい職場環境になりがち
落ち着いた環境なら力を発揮しやすいHSPの人も多いと思います。
しかしそうした環境とは正反対の部署も結構あります。
たとえば、パソコンでの業務に集中したいのに電話や窓口対応で中断されたり、突然の上司からの指示で別の仕事にとりかかったり、といった環境です。
僕の感覚だと、本庁では突然の議員対応(レクの資料作りなど)、出先機関では窓口対応がどうしても自分ではコントロールできない業務でした(加えて電話も)。
このようにいろいろな業務にその都度対応しないといけない環境だと、注意が分散し力が発揮できなくなるHSPの人は多いのではないでしょうか。
というのも、いろいろな方向にアンテナを張って周囲の刺激を過剰に受け取りやすいからです。
僕の場合、特に出先機関にいたときの職場環境はかなりきつかったです。
(自分の業務以外のものも含め)電話が鳴りまくり、窓口業務も頻繁にあったため、とても集中できる落ち着いた環境ではありませんでした。
なお、当時の苦い思い出については以下の記事で触れています。
④飲み会などの付き合いが多い
公務員は飲み会(夜の付き合い)が結構あります。
コロナ禍で少なくなったかもしれませんが、それ以前は新年度や年末・年度末はもちろん、暑気払いなども含め職場での飲み会が頻繁に開催されていました。
職場全体でなくても、歳の近い同僚や他の部署にいる仲の良い同期と飲みにいくことも結構あります。
しかし、大人数の飲み会が苦手というHSPの人にとって、こうした文化は合わないのではないでしょうか。
騒々しい環境が苦手なことに加え、周りの会話や雰囲気を読み取って「うまく振る舞わないといけない」と神経を張り詰めすぎる傾向があるからです。
ただ、僕はわりと飲み会は(というかお酒を飲むのが(笑))好きな方なので、そこまで苦ではありませんでした。
特に、仲の良い同期や同僚との飲み会には楽しく参加していました。
とはいえ、仕事関係の飲み会はやはりかなり気をつかいます。
仕事相手(某民間企業や地元の名士など)のお偉いさんがいる飲み会では、ひたすら焼酎のお湯割りを作っていたこともありました(笑)
そして飲み会後には一人反省会をするというのがいつものパターンです。
公務員の飲み会事情については以下の記事で解説しています。
おわりに―公務員を選択肢に入れるのはあり―
今回は「HSPは公務員に向いているのか」というテーマで書いてきました。
改めて結論を書くと、HSPが公務員に向いているかどうかは一概には言えません。
ただ、どんな点が向いている/向いていないのかについてはこの記事で解説したので、参考にしてもらえるとうれしいです。
個人的な意見としては、HSPの方が公務員を目指すのは「あり」か「なし」かでいえば、「あり」だと思います。
もちろん合わないと感じる場面もあるかもしれませんが、それは実際に働いてみないと分からないからです。
少なくとも、常に売り上げや営業ノルマに追われ、達成できないと上司に激詰めされるような会社よりははるかに働きやすいでしょう(笑)
特に、ルーティンワークや細かい書類仕事、ガチガチの年功序列などが苦にならない方は選択肢に入れてみてもいいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
なお、冒頭で引用した本はこちらの2冊です。