はじめに
「こうすればお金を稼げる!」
「資産形成するならこうしろ!」
世の中にはこんなうたい文句のビジネス書や自己啓発本があふれています。
確かに、生活するうえでお金を稼ぐことは大切です。
でも、自分自身が稼げるかどうかにしか関心を持たない態度は、果たして健全なのでしょうか?
あるいは、自分にとっては合理的な行動が、世の中全体にとっては不合理な結果を招くとしたら…
回りくどい書き方になってしまいました。
何が言いたいかというと、お金について「正しく」考えるなら、個人のミクロな視点だけでなく、社会全体に関するマクロな視点も持つ必要があるということです。
そうすることで、お金や経済の本当の姿が見えてきます。
そんなことを考えさせてくれるのが、今回紹介する『誰も教えてくれない お金と経済のしくみ』です。
どんな本?―個人レベルから国レベルまで、お金の本質を解説―
この本の著者は若手経済アナリストの森永康平氏。
メディアにもよく登場する経済学者、森永卓郎氏の息子さんです。
現在は金融教育の普及にも力を入れている森永氏ですが、その背景には日本人がお金の話題を過度に避けているために、個人レベルでも国レベルでもお金の問題(貧困や経済停滞)に苦しんでいる現状を何とかしたいという思いがあるそうです。
この本の前半では、投資や金利、税(累進課税)の仕組みなど、お金に関する基礎的な知識をデータをもとに解説しています。
また教育や介護など、将来どのくらいのお金が必要になるかについても分かりやすく書かれています。
このように書くと、巷にあふれる普通のビジネス書と変わらないと思われるかもしれません。
しかし、こうした個人レベルのお金の話題から、マクロな視点に移る箇所がたくさんあるのが、この本のユニークな点です。
例えば子育ての話題では、未婚化・晩婚化が進んでいるのは非正規雇用の若者が増え、所得が低いからだということを、データから明らかにしています。
こうして未婚率が上がり、子供を持たない人が増えると「いまだけ、自分だけ」のことにしか関心が向かなくなり、国全体にとってマイナスになるのではないかと森永氏は憂慮しています。
なんだか僕自身(アラサー底辺未婚男)のことを言われているようで、その通りだと感じると同時に情けなくもなりました(笑)
マクロ経済がよくわかる!
個人的に一番興味深かったのが第5章(最終章)です。
ここでは「そもそもお金はどうやって世の中を回っているの?」というテーマで、インフレ・デフレや円高・円安、金融政策・財政政策など、マクロ経済について解説しています。
いきなりこうした話題に触れると身構えてしまう人が多いかもしれません。
でも、この本ではお金や経済について身近な話題から順を追って解説しているので、かなりスムーズに最終章の話題を理解できるようになっています。
特に重要なのは最後に触れている、消費税の増税や国の借金に関するトピックでしょう。
日本では「国の借金(国債)が増え続けているから、消費税を増税して返さないといけない」と、常識のようによく言われます。
でも、お金や経済の仕組みを学んでいくと、本当にこうした「常識」が正しいのか、必然的に疑問が生まれてくることが本書では示されています。
詳しい内容は省略しますが、例えば国債は誰が買っているのか?あるいは国債を発行しまくった結果、(経済学者が警告するように)円は暴落し高インフレになったのか?といった点を考えていくと、お金や経済の本当の姿が見えてくるはずです。
こういった論点をより詳しく知りたい人のために、この本では各章の最後にあるコラムで、多少専門的な話題も扱っています。
特に、預金の仕組み(信用創造)について解説した第1章のコラムは必見です。
銀行は預かったお金を貸し出すのではなく、ゼロからお金を生み出せるという考え方(内生的貨幣供給理論)を知ることで、いわゆる「国の借金」問題に対する見方も変わってくるはずです。
おわりに―「自分だけ稼げればいい」から脱却しよう―
今回は森永康平著『誰も教えてくれない お金と経済の仕組み』を紹介しました。
お金や経済に関する正しい知識を身につけることで、自分がお金に困らなくなるだけでなく、(税や経済対策などに関して)政治に対して正しく働きかけることもできるようになります。
一人ひとりの力は小さいですが、多くの人がそうすることで社会全体が豊かになり、まわりまわって自分自身の生活も豊かになる好循環が生まれます。
格差の拡大が進む現代社会の中で、自分だけ稼いで生き延びようとする考え方よりも、こちらの方がよほど健全ではないでしょうか?
この本を読むと、自然とこんなふうに考えられるようになります。
ちなみに僕の場合、この本で解説されているお金や経済の知識はある程度理解しているはずなのですが、なぜかお金に困っています(2021年12月現在)
まあそれは、知識以前に、単に社会人としての能力にどこか欠陥があるせいでしょう(笑)
それはさておき(?)、最後まで読んでいただきありがとうございました。